この記事ではバッテリーの種類の一つである「VRLA」について解説します。
VRLAとは?
VRLAとは「Valve-Regulated Lead-Acid」Battery の略です。
日本語では「制御弁式鉛バッテリー」や「密閉型鉛蓄電池」と呼ばれます。
VRLAバッテリーは自動車で一般的に使われている液式バッテリーと大きく異なる特徴が5つあります。
VRLAの5つの特徴
VRLAの特徴は次の5つです。
- 密閉構造
- AGMセパレータ
- 補水不要のメンテナンスフリー
- 一括排気構造
- 密閉反応(負極吸収反応)
5つの特徴を1つずつ解説していきます。
密閉構造
VRLAバッテリーの最大の特徴は密閉構造にともなう特殊な設計です。
VRLAバッテリーは液式の開放型バッテリーと異なり内部は密閉されており、液を入れるための液口栓はありません。
その代わり排気孔内部に「制御弁(ゴム弁)」が装着されており、セパレータには保水性に優れた「AGM(ガラスマット)」が使用されています。
VRLAバッテリーは密閉構造によって内外の通気を遮断して気密性を保ちます。
気密性を保たなければならない理由は、VRLAバッテリーの内部は液が少ない構造であるため気密性が保たれていないと極板が空気中の酸素とふれて容量が低下してしまうためです。
それを防ぐため排気孔にゴム弁を装着して密閉性を保ちます。
VRLAバッテリーは密閉構造ではあるものの、過大な電流が流れて大量のガスが発生しても一定圧以上になると、ガスを逃がすために制御弁が開きガスを逃して内部破裂を防ぐ安全構造となっています。
AGMセパレータ
VRLAバッテリーには「AGM(Absorbed Glass Mat)セパレータ」が採用されています。
AGMセパレータは微細なガラス繊維でできており、電解液を吸収してセパレータ内部に保持します。(参考:電解液とは?)
セパレータに電解液をしっかり保持できるため、開放型のバッテリーよりも少ない電解液量でも効率よく反応して電気を取り出すことができます。
AGMセパレータを使用するVRLAバッテリーは正極活物質をしっかり押さえつける構造になるため「軟化脱落」という正極の劣化を抑制する効果もあります。
補水不要のメンテナンスフリー
VRLAバッテリーは補水するための液口栓はなくメンテナンスフリーです。
液式のバッテリーのように液漏れなどの心配がないため室内へのレイアウトが可能です。
一括排気構造
一括排気構造は特にハイブリッド車用のVRLAバッテリーでの構造となります。
VRLAバッテリーは室内置きを前提としているため、発生したガスを車外に一括で排気するため排気口にはガス排気チューブを取り付けられるようになっています。
密閉反応(負極吸収反応)
負極吸収反応を図を使って説明します。
左が液式バッテリーの化学反応のカンタンな説明図です。
開放型の液式バッテリーの場合は充電中の反応の副生成物として、水素と酸素のガスが発生して空気中に出ていくため液が減ります。
一方、右の図のVRLAバッテリーでは正極から発生した酸素はAGMセパレータを通って負極と反応し酸素が水に戻ります。
これを密閉反応(負極吸収反応)と呼びます。
VRLAバッテリーではこの負極吸収反応が起こるため液が減りません。
VRLAの主な用途
VRLAバッテリーの主な用途として4つご紹介します。
ハイブリッド車用補機バッテリー
前述していたのは主にこの「ハイブリッド車用のVRLAバッテリー」についてでした。
内部構造はどんな用途のVRLAでも基本的に同じですが、外側のサイズは各用途で異なります。
こちらのハイブリッド車用のタイプは自動車用のJIS規格サイズがベースになっています。
代表的な使用車種は、1代目~3代目(10系、20系、30系)のプリウスで、VRLAは補機バッテリーとして使用されていました。
4代目の50系ではEN規格の液式バッテリーに変わりました。
以下の記事でプリウス補機バッテリーの適合サイズについての解説もしています。
>>おトクに交換したい!プリウス補機バッテリーの適合サイズ,費用はコレ!
バイク用バッテリー
バイクユーザーはよくご存知かも知れませんが、バイク用は小型のVRLAバッテリーが主流です。
バイクに乗らない方はあまり馴染みがないかも知れません。
バイク用は小型で容量も少なく、バイク自体に乗らない期間が多いユーザーも多いため、使わないときは車体から外して保管したり、こまめに充電しておくことで長持ちさせることができます。
仮に放電しきってしまっても充電器で充電することである程度回復する場合も多いようです。
こういったところは液式バッテリーよりも優れている点といえます。
欧州・北米の高級車用バッテリー
VRLAバッテリーは液式バッテリーよりも高コストになりますが、耐久性の面で液式よりも勝ります。
日本の自動車メーカーはガソリンエンジン車でVRLAバッテリーを使用しているメーカーは皆無ですが、欧州メーカーのメルセデス・ベンツやBMWでは「AGMバッテリー」という呼び方で使用されています。
AGMバッテリーもVRLAバッテリーも電解液を吸収させたセパレータを使用する点で同じであり、呼び方が違うだけと考えてよいです。
マリン用ディープサイクルバッテリー
ディープサイクルバッテリーはボートなどのマリンでの乗り物向けに作られたバッテリーです。
ボート内のユーティリティーへの電力供給を目的として使用されるため、大容量で深い充放電に耐える特性が求められます。
最近はリチウムイオンバッテリーで同様の用途のものもありますが、鉛バッテリーと比較すると非常に高価になるためまだまだ鉛のディープサイクルバッテリーが主流になっています。
ディープサイクルバッテリーはマリン用の乗り物だけではなく、キャンピングカーの車内電力を賄うための電源や非常用電源、電動タイプのフォークリフト、ゴルフカートなど様々な用途に合わせた設計のものが使用されています。