輸入車用のバッテリーや最近のトヨタのバッテリーのDIN規格、EN規格バッテリーを調べていると「20時間率容量」という項目を目にすると思います。
JIS規格の日本のバッテリーをよく知っている方だと5時間率容量の方が見なれているかも知れません。
ただ、20時間率にしても5時間率にしてもどういう容量のことを表しているのかはあまりご存知ない方も多いと思います。
この記事では「輸入車用バッテリーの製品仕様を見てたら"20時間率容量"って書いてあるけど、"20時間率容量"ってよくわからないなあ。"20時間率容量"ってなんなんだろう?」という疑問にお答えします。
「詳しい説明はいいから結論が知りたいよ」って方のために結論を先に言いますと20時間率容量とは以下で定義されています。
20時間率容量とは「満充電にしたバッテリーを電解液温度25±2℃で、20時間率容量の1/20の電流(20時間率電流:0.05C)で、放電終止電圧10.5Vに降下するまで放電したときのバッテリーの容量(Ah)」です。
「ちょっと意味がわからないよ。」と思った方は、この記事を読み進めてください。
バッテリーの重要指標である20時間率をしっかり理解したいという方のために、わかりやすく丁寧に解説します。
20時間率の前にバッテリーの容量について知ろう
20時間率の説明をする前にバッテリーの容量についての基本を正しく理解しておきましょう。
容量とは
「容量とは満充電されたバッテリーの端子電圧が所定の放電終止電圧になるまで放電する間に取り出すことのできる電気量のこと」です。
なかなかわかりにくい言葉が並んでいて理解しにくいと思いますので、とりあえず今のところは「容量は電池に蓄えられている電気量のことだ!」ぐらいに思ってください。
このあと詳しく説明します。
容量の単位は「Ah」
イメージがしやすいように容量を「単位」を用いて説明します。
バッテリーの容量を表す単位は「Ah」(アンペアアワー) が使われます。
この単位が容量そのものを表しています。
Aとhの意味は以下のとおりで
- 「A」(Ampere:アンペア) が電流
- 「h」(hour:アワー) が時間
を表しています。
つまり、容量は単位が意味するところの次の式で表すことができます。
この式の通り、容量は (放電する電流) ✕ (放電できた時間) で計算することができます。
この計算式で具体的に容量を求めるために、放電する電流や放電終了の条件を決めなければなりません。
その取り決められた容量の1つが「20時間率容量」というわけです。
容量の種類
この容量の考え方は20時間率容量だけではなく、他の容量にも使われます。
自動車用バッテリーやバイク用バッテリーでよく使用される容量の種類は
- 5時間率容量
- 20時間率容量
- RC(リザーブキャパシティ)
- 10時間率容量 [バイク用で使用される]
などがあります。
この記事では20時間率容量について説明しますが、他の容量についても考え方はほとんど同じです。
20時間率容量とEN規格
20時間率容量は、主に欧州のEN規格で採用されており、欧州向けのEN規格バッテリーの製品仕様に記載されています。
輸入車用バッテリーの製品仕様を調べたことがある方なら見かけたことがあると思います。
また日本車においては、2014年にトヨタのノア・ヴォクシーのハイブリッド車にEN規格バッテリーの「LN2」が搭載されたことを皮切りにトヨタではEN規格バッテリーの採用が拡大しています。
これまで国産車はJIS規格のバッテリーが使われてきましたが、今後はEN規格バッテリーの普及が更に広まり、20時間率容量を製品仕様に記載することが増えると予想されます。
20時間率容量の定義
20時間率容量とは「満充電にしたバッテリーを電解液温度25±2℃で、20時間率容量の1/20の電流(20時間率電流:0.05C)で、放電終止電圧10.5Vに降下するまで放電したときのバッテリーの容量(Ah)」です。
わかりにくい部分もあると思うので、部分ごとに解説していきます。
満充電
まず容量の試験をするときバッテリーは満充電でなくてはいけません。
満充電の方法は、規格で決められていますが、JIS規格とEN規格では満充電方法が異なります。
ここでは20時間率容量で使用されるEN規格での充電方法をご紹介します。
EN規格の充電方法を抜粋した表を以下に示します。
「充電の条件は電圧 "16V"、電流 "20時間率電流の5倍"で定電圧定電流充電(CCCV充電)を24時間実施する。充電時のバッテリーの温度は15~35℃の範囲とする。」
という意味です。
厳密には他にも前提条件があったり、液式バッテリーとAGMバッテリーで電圧条件が違ったりします。上記は液式バッテリーでの条件となります。
EN規格の満充電はかなり高めの電圧(16V)で長時間(24h)の充電を実施して、しっかり満充電させるところが特徴です。
市販されている一般的な充電器はここまで高い電圧設定にはならず、バッテリーをいたわる14V程度の充電になります。
EN規格の満充電はバッテリーのパフォーマンスを試す容量試験の前の充電であるため16Vという高い電圧でしっかり充電させています。
電解液温度
電解液の温度は25±2℃で試験を実施するように規定されています。
(参考:電解液とは?)
なぜ25℃に規定されているかと言うと
「温度によって取り出せる容量が変わってしまうため、25℃で統一して試験をする」ためです。
±2℃の部分はピッタリ25℃とはせず±2℃の余裕をもたせています。
ピッタリ25℃で規定しないのは
- 電解液温度を測定する温度計の精度の問題
- バッテリーの温度調整をする水槽や恒温槽の精度の問題
- ±2℃の温度範囲では容量に違いが出ない
などの理由があるためです。
20時間率電流(0.05C)
20時間率容量の1/20の電流が20時間率電流となります。
このときの20時間率容量は定格容量を用います。
定格容量とは「そのサイズではこれだけの容量がありますよ」と規格が決めていたり、バッテリーメーカーが決めていたりする容量値のことです。
例えば、定格容量が60Ahの「LN2バッテリー(GSユアサのエコアールENJを参考)」の場合を考えると
60Ah の20分の1は 60 ÷ 20 = 3 [A]
3 [A]がこの場合の20時間率電流(0.05C)となります。
20時間率電流の後ろに(0.05C)と書いてありますが、これも20時間率電流を表す「Cレート」という電池業界ではよく使われる表記です。
20時間率であれば 1 ÷ 20 = 0.05C、10時間率であれば 1 ÷ 10 = 0.1C となります。
放電終止電圧 10.5V
20時間率電流でバッテリーを放電していくと、だんだんバッテリーの電圧は低下していき、容量がなくなると一気に電圧が降下してバッテリーは空っぽの状態になります。
「バッテリーがもう空っぽになったので放電を止めます」という電圧が放電終止電圧です。
20時間率容量試験の場合は放電終止電圧が10.5Vに規定されています。
イメージをしやすくするためにグラフを使って説明します。
20時間率容量の放電グラフ
20時間率容量放電時の放電時間と放電電圧の関係をしめしたグラフです。
グラフを見ていただければわかるように、バッテリーは放電を開始すると電圧が低下していき、やがて放電終止電圧の10.5Vに到達します。
10.5V到達までの放電時間を計測して、(放電電流) ✕ (放電時間)により、20時間率容量が求められます。
20時間率容量測定の具体例
ここまでの説明をより理解するために、具体的な20時間率容量について例を使って説明します。
先ほどのグラフにおいて放電できた時間が以下のようになっていたらどうでしょうか。
放電できた時間が20時間ピッタリよりも長くなった場合、定格容量である60Ahよりも実際の容量は大きくなります。
計算すると、
3[A] ✕ 20.5 [h] = 61.5 [Ah]
となりました。
定格容量の60Ahよりも大きくなりましたね。
このように実際に測定してみると、メーカーが定格値として提示している容量よりも少し大きくなることがあります。
20時間率容量のまとめ
バッテリーの20時間率容量に関して、
- 20時間率容量の定義
- 20時間率容量の試験方法と計算例
を主に説明しました。
20時間率容量がどういうものなのか、どういう試験で測定されてどういう計算によって求められるのか理解していただけたと思います。
5時間率容量との違いについても理解しておくとさらに容量についての理解が深まりますので、以下の記事も参考にしていただくことをオススメします。